まず始めに、この論文を読んで改めて生命の素晴らしさに感服する。非常に複雑であるにもかかわらず、見事なほどに緻密な自律制御から成り立っているのが生命だ。生命と非生命との決定的な違いは、この自律性にある。生命現象は、自律性という自己制御を介して、最終的にひとつの成熟した生命集合体である個体へと成長を遂げる。一方、非生命は人の手による自動制御を行なうことはできるが、分化増殖して最終的にひとつの生命体へと変化する自律性はない。
さて、話を戻そう。 当論文において著者らが行なった実験は非常に単純で分かりやすい。抄録に書いてある通りだ。 まず、傷害誘導性筋細胞由来幹細胞作成方法だが、マウスの前脛骨筋を傷つける。本論にはlaceration injuryと書いてあるので、ナイフか何かで切り付けたのだろう。それから、前脛骨筋を(恐らく、図にあるとおり、筋1本まるごと)採取する。4日培養後に得られた細胞の一部が傷害誘導性筋細胞由来幹細胞(以下、iMuSCs)というわけだ。 ここで、彼らが優れている最初のポイントは、iMuSCsの分離培養技術だ。図からするとESC培養液とは、ESGRO Complete PLUS Clonal Grade Medium (Millipore, USA)のことだと思うが、この培養液に出会うまで相当の日数を要したはずだ。また、全筋細胞のおよそ0.1%というから、iMuSCsを確実に得るために、これまた相当の試行錯誤があったのではないだろうか。この知識と技術がいわゆる伝統芸(技術)というものだ。 アメリカに限らず時代をリードしているラボ(例えば、山中教授の所属する京都大学IPS研究所)は、このような伝統的かつ独創性豊かな技術と知識が満ち溢れている。これがやる気満々の若い研究者を引き付けるのだ。必要な時には、この技術や知恵を交換し合ってコラボすることがある。当たり前だが、このような伝統技術を外部に漏らすことは固く禁じられている。 次に、図aのmusle growth mediumについて簡単にコメントしておく。本論を読むと、この培養液は、10%馬血清(HS)1%鶏胎抽出液(CEE、Accurate Chemical Co., UK)1%ペニシリン-ストレプトマイシンを添加したDulbecco’s Modified Eagle’s Medium (DMEM)のこと。この培養液の基本はDMEMだ。DMEMは、通常組織培養に使用する。musle growth mediumとは、これに10%馬血清と1%鶏胎抽出液を加えた培養液だ。なぜDMEMにこれら2つを混ぜると、筋肉の成長が促進されるのか不明であるが、良くさぐり当てたものだと関心する。 |
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